多様性、社会の活力、 「障がいのある人の就労」は成熟した社会へのキーワードです…

NPO法人日本就労支援センター Natural Support ナチュラルサポート

福祉的就労・保護雇用

日本の障がい者就労事業

日本にはおよそ2000箇所の授産施設と6000箇所の小規模作業所が活動しています。ここでは障がいのある人が自立や自己実現のため様々な作業を行い工賃が支給されています。しかし、その平均は2万円以下/月(小規模作業所は8千円)という信じ難い状況であり、欧米など労働法規や所得保障をもとにした考え方と比較するとずいぶん遅れています。では、どうしてこのような状態が長く続いてきたのでしょうか。それは我が国の障がい者福祉の歴史や制度などが大きく影響しています。

授産(じゅさん)ということばにあるように、その始まりは窮民や失業武士、震災被災者を救うための救済事業でした。文字どおり気の毒な人たちに「授ける」という意味をもっていました。戦後になって社会福祉事業法に体系化され社会福祉事業として位置付けられることになりますが、「身体障害者収容授産施設」と呼ばれたように「収容・保護」や「授ける」から現在の福祉が出発することになります。

その後、障がい者福祉の高まりから「精神薄弱者収容授産施設」、「重度身体障害者収容授産施設」、「身体障害者福祉工場」、など様々なスタイルの授産施設が法整備とともにできあがります。昭和50年代にはいると国際障害者年やノーマライゼーションの理念に基づく通所型の施設が整備されはじめます。同時に施設整備の遅れの穴を埋めるように小規模作業所(無認可施設)がたいへんな勢いで増えていきます。これほど多くの小規模作業所が社会資源として機能しているケースは日本独特といわれています。

授産施設・小規模作業所がかかえる課題
福祉施設のなかでも生産活動・経済活動を行う授産施設は経済構造の変化や障害者福祉の「障害者自立支援法」(平成18年)以降、そのあり方が岐路にたたされています。「障害者自立支援法」では、これまでの施設体系を見直し、新たに就労移行型・継続就労A型(雇用型)・継続就労B型(非雇用型)へ再編されます。整理するべき課題をあげると。

  1. 地域での存在意義やあり方
  2. 経営感覚やマネジメント
  3. 職業リハビリテーション機能
  4. 低い工賃の問題(労働か訓練か)
地域での存在を問い直す、そして発信する
私たちの組織や事業は、いったい何のためなのか、社会福祉の仕事は、結果や価値が分かりにくいと言われています。私たちは豊かな地域をつくるための一つの機能であり、地域社会のニーズにピッタリと沿ったものであることが大切です。地域の様々なパートナーと協働し付加価値を高めていく(だれもが住みよい街をつくる)ことが望まれます。地域社会のニーズに沿った経営を追求する限り私たちは支持され存在します。
経営感覚やマネジメント意識
安定した従来制度と規制のもとでは大きな問題はなく施設はその存在のみで充分と思われてきました。しかし変化の時代を迎え、社会福祉の意味の変化(ノーマリゼーション、自己実現、自己決定)、契約制度や社会コスト、費用対効果という新しい概念のもとでの戦略と組織のマネジメントは施設の存続の条件となってきました。
継続的な福祉就労が基本機能?
現在の福祉施設は「企業就労が困難」な重度障害者によって多くが占められていると言われてきました。しかし、今日、障害者雇用の様々な援護制度が整備され、先行企業の取組などから、これまでより雇用のハードルは低くなっており「企業就労が困難」という言葉は事実でなく、非常に曖昧となっています。また、私たちがプロなら、「企業就労が困難」という思考停止状態でなく、「何故(なぜ)難しいのか」から始まるべきです。
低い工賃の問題、労働か訓練か問い直してみる
日本の授産施設はその誕生からこれまで福祉行政のもとで運営されてきました。そのため、働いているにもかかわらず労働者としての権利や最低賃金・所得保証という考え方はほとんど意識されることがなかったといえます。職業的な不利を持ちながら、手厚い職業的な支援が必要であるにもかかわらず、その機会を充分提供することができてこなかったと思われます。
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これからの施設経営について「戦略的思考」で

近年サービス業はよいサービスを安定して提供していく仕組みとしてマネジメント(戦略的思考)という考え方をするようになりました。ニーズをすばやく捉え迅速に対応する、顧客の満足度を凝視し常によりよいものに近づく取組みです。マネジメントサイクルとは企画(PLAN)→実行(DO)→検証(CHECK)→改善(ACTION)→また企画への循環の輪をまわし続けることです。この循環がある限り運用する人が変わっても、時代やニーズが変化してもそれに対応することが可能です。サービス業に限ることなく変化を常態ととらえ常に改善を行う体質が組織の条件であるといえます。

ブランドづくりが施設経営を支える
「ビジョナリーカンパニー」という言葉を目にしました。おおよそ顧客や社会に対して明確な価値観とメッセージをもち、それが経営の中心にありさらに構成員の行動の規範にもなっている組織とし、時代を越えて支持される組織の条件…という意味です。この概念は授産施設にとって非常に大切なことではないかと思いました。私たちは経済活動を行っていますが決して営利追求の組織ではなく社会の中で障がいのある人の就労を担う公益的な存在でもあります。地域にたいして明確な価値観とメッセージを発信しコミュニケーション活動を行うことが大きな役割であると考えています。その不断の取組みこそ地域社会が授産施設を支える仕組みを創りあげていくこととなります。私たちの仕事の守備範囲は施設だけではなく地域社会であるともいえます。

まず、私たちの存在や活動を知ってもらう
シンプルで分かりやすい方法で「自分たちの存在を印象付ける」ことがブランドづくりの第一歩です。私たちは日頃から授産活動に携り生活の一部となっていますが、通常の社会生活営む一般の方には殆ど知られることのない存在ではないでしょうか。街を歩く人に「○○作業所」や「○○施設」を知っていますか?と尋ねると殆どの方は「知らない」か「名前しか」と応えるでしょう。

  1. 「存在や授産事業を知っていただく」
  2. 「障がいのある人の就労や作った製品を知っていただく」

この2つについて分かりやすく伝えることからはじめることが必要です。さらに継続して続けることにより認知・理解が深まります。ブランドとは「認知の深まり」のことで、活動(障がいのある人の就労環境整備)の大きな糧となります。

※欧米のNGOやNPOのブランド戦略は非営利組織ならではの非常に高度なマネジメントが行われています。
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授産製品の明日

授産施設や小規模作業所で作ったものを授産製品と呼んでいます。売上は必要経費を差し引いたものが工賃として利用者に支給されます。授産施設が自主製品をつくることの意義を少し考えてみました。
授産施設は「自主事業(製品・サービス)・下請け作業・就労支援事業」のどの事業を選択するか、その所在の地域や利用者の障がい程度、人や設備をもとに検討されます。特に周りに企業が少ない、下請け作業が無くなったなど深刻な地域では新しく事業を起こし利用者の職場をつくらなければなりません。さらに、常時支援が必要な職業的重度の方や離職者の活動の場として自主製品をつくる施設もあります。しかし、どのような場合でも、消費者(顧客)を対象にしたものであれば、品質や技術を追求し商品への責任を果たすことが必要です。

そこで質問です!

  1. 商品製造の手順書はつくっていますか?
  2. 製造の責任者を設置していますか?
  3. PL法はご存じですか?
  4. 自分の施設の職員が使っていますか(もっていますか)?
授産製品あれこれ

授産施設の約3割程度が自主製品をつくっていると言われています。パンやクッキーまたは木工品などはよく知られているかもしれません。その他に縫製手芸品、陶磁器、菓子食品、ハーブアロマ製品、日用雑貨、漆器、工芸品、文具・ステーショナリー、アクセサリー、アート、観葉植物、建築材料まで非常にバラエティーにとんでいます。 しかしながら、商品としてはいまひとつというものも少なくありません。

商品作りのレベルから検証すると、
デイサービスタイプ
儲けなくてもよいという考え(もの作り以前の問題です)
他の施設でもやっているから(製品の設計や販路は)
とりあえずタイプ
以前から作っているから(今売れていますか、将来も大丈夫ですか)
他の施設でもやっているから(消費者を向いて!)
職人・こだわりタイプ
品質はよいがデザインが古い(どんな人がどのように使うのでしょう)
自信過剰商品(何かが...、一般同等品と比べてみる必要あり)
がんばる施設の商品タイプ
流行を追って空回り商品(商品のライフサイクルを考えて)
単品販売としては魅力薄(別のチャンネルを考えれば)
一般流通OKタイプ

マーケティングと緻密な設計、品質管理を怠らないで。サービス窓口でリピートづくり。

以上、商品づくりで分類してみました。あなたの施設の商品はどうですか。
よい商品が障がいのある人の理解を深める
よい商品をつくり出すことは利用する障がいのある人の工賃に還元できるだけでなく、授産施設や障がいのある人の理解につながります。授産製品をつくるのは職員です、障がいのある人の作った商品は「高い」「品質が悪い」となると、それは支援する職員の資質の問題(結局リーダーに問題)といえます。この誤解は大変なことです。だれも売れない商品を好んで作る人はいません。
マーケット=地域社会
どんな商品にもマーケットが存在します。授産製品にとってのマーケットは特別な意味をもちます。それは、マーケットが実は私たち福祉業界が意識し働きかけている「地域」または「社会」なのです。「地域の理解」や「地域生活」、「地域福祉」と多くの場面で「地域」をよく口にします。しかし授産施設の職員はマーケットと地域を同一のものと感じている人が少ないかもしれません。ひとつひとつの商品は実はメッセージをもって地域の人に伝わっているのです。
価格の決め方

商品の価格の決め方にはいろいろな考え方があります。例えば、市場の同等品から決める、消費者の値ごろ感から決める、市場の成熟度から決めるなどなど。しかし基本は製造原価(材料費+人件費+経費)プラス利益でなければなりません。

経費は原価償却費、水道高熱費、修繕費、宣伝費、賃借、その他です。ぜひ、この方程式に入れてみてください。利益がないようでしたら商品の企画が不十分ということとなります。

設計ミスだとすると、

  1. 材料費をおさえる(もっと安い仕入先は、値段の交渉は、別の材料は)
  2. 人件費をおさえる(2人のところを1人でできませんか、効率化で時間を短縮できませんか)
  3. 経費をおさえる(根気よくひとつづつ検証)
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福祉ショップの経営

近年、福祉施設の商品を販売する福祉ショップの経営が難しくなっているようです。多くが補助金を運営の基盤にしており、事業という意識を持つことが大切です。決して障がいのある人の作った作品が売れない・魅力がないと結論づけるのは誤りです。商売や販売のノウハウ(売れる仕組みづくりや売場工学・コスト意識)など多くの改善の余地があります。憂慮されるのは福祉ショップの撤退が「障がいのある人の商品は売れない」というイメージが消費者はさることながら作る人や関係者に与えてしまうことなのです。

近年の店舗運営はマーケティングやショップブランドの確立が不可欠となっていますが、これは一方で、支援組織(行政や団体)やデベロッパーへの理解を得、継続的な支援を受けるためにも不可欠な要素です。なお、ここでの福祉ショップとは、広域の施設の商品を取扱う店舗であることを想定しています。集いの場やギャラリー・作品発表展示を主な目的としている店舗は除きます。

そこで質問です!

  1. 月々の売上目標をたてていますか?
  2. 棚卸しは定期的に行っていますか?
  3. 売れないものを値下げして安売りしていませんか?
  4. お客さまにすぐ声をかけていませんか?
お店のブランドづくりを考える
従来の日本の流通業は大量消費とそれを支える薄利多売によるものでした。しかし、近年の消費不況はデフレ化が進み、消費者は「本当に必要なものだけ買う」という購買意識を持ちました。そして不況を脱却したものの、その厳しい選択眼は定着したものとなりました、お店を出せばお客が来る時代は終わったのです。店舗のあり方は価格訴求に頼ることのない価値(ブランド)を提供することが必要となっています。
ショップブランドを育てる
消費者は、購入動機から購入時そして購入後のそれぞれの価値を換算し、もう一度お店を利用したいと考えています。これらの価値がショップブランドであり基本価値(店舗の基本機能)に付加されたところでようやくリピーターとなります。このように、ショップブランドの到達点はリピーターやお店のファンの育成といえます。
雑貨屋から脱皮し新たな業態をつくる
障がいのある人が作った商品を販売するお店は競争相手の少ない市場独占の業態とも言えます。全ての消費者に支持されることは難しいですがマーケティングの手法を導入し「雑貨屋」から脱皮することにより新たな業態となります。地域でたった一つの「福祉ショップ」となり商圏は広くなりリピターづくりも容易になります。
キーワードは「やりたい人にさせる」
フランチャイズなどが直営店をオーナー店に変更した場合、最低でも10パーセント最高で50パーセントの収益が上がることが指摘されています。企業などで新規事業を始めるときに、担当者を社内公募をするなどしてその事業に興味がある人材を配置し、かなりの自由裁量権と責任を与えています。また、本業と切り離した個々の勤務体系・給与体系にしているケースも多いとききます。まさに、成功のキーワードは、商(あきない)いを「やりたい人にさせる」ことと、権限委譲やインセンティブ制度の導入などやる気を持続させるしくみをつくることではないでしょうか。
商売が好きな人がお店をしないと成功するはずがありません。

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